作品

同窓会

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 恩師がこのたび教員生活に終止符を打ったという。
 それを機に同窓会を行うという往復葉書が■■の元に届いたのは、春から初夏へ季節が移ろう頃であった。卒業以来、■■は三度ばかり引っ越しをしたが、そのたびに同窓会役員に転居通知を送っていたようだ。
 学生時代に対して、思い入れも無ければ付き合いの続いている友人もいない。それにもかかわらず知らせを出していたことに、■■自身が驚き、意外に思った。
 一月後の予定を確認した■■は、切り取った往復葉書の片割れの、出席欄に丸を付けてポストに投函した。
 
 それから暫く、■■は同窓会のことは忘れて過ごしていた。
 
 そういえばと思いだして同窓会に行った■■は、奇妙なことに気がついた。目の前にいる人物が誰だか認識できないのだ。
 みな肩の上の顔があるべき場所に何も無いのである。いや、それは正確では無い。顔があるべき場所にうつろがあるのだ。向こう側が透けているのでは無く、ただ何も無い空間が存在している。
 ぽっかりと空間が切り取られたような虚に向かい、■■の表層は何事も無く会話をしている。表層には、そこにあるべき顔が見えているらしい。当然、その相手が誰であるかも認識している。■■自身も会話は聞こえているのだが、肝心の名前だけはノイズに邪魔されて聞き取れない。
「そういえば、」
 やがて■■の表層は、そのグループを離れて、別のグループの会話に加わった。
 

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