人を拾う話

Views: 103

今後の展開で、R18を含む予定です

ベンチャー企業の社長である大場晃司が拾ったのは、人だった。

人を拾う話01
少し残業をしてトラブル処理をするつもりが長引き、終電を逃してしまった。ついでに事務作業を済ませてから仮眠を取り、大場晃司は始発電車で帰宅した。  午後の会議には出席しなければならないので、五時間休めればいいかと思いながら早朝の路地を歩く。  自宅マンション前のゴミ集積所に、黒い大きなゴミが捨てられているのが遠目に見えた。誰かが粗大ゴミを申し込む手間を嫌って、丸めたカーペットでも出したのだろうと思いながら通りかかる。  捨てられていたのは人だった。
人を拾う話02
「死んでんの」  口の中で呟きながら、ゴミ集積所に横たわる男をつま先でつつく。晃司は通報するべきか一瞬だけ迷った。男が小さく呻く。  警察と関わるのは面倒くさい。いろいろ聞かれて貴重な睡眠時間を削られるのも億劫。目が覚めればこの男もどこかに行くだろう。  そう結論して晃司は踵を返す。 「人を蹴飛ばしといて、その態度はねえだろうがよ」  のんびりとした口調だが、晃司は無視出来ない響きを感じた。  厄介な相手と関わってしまった。そう思いながら晃司が振り返る。男がのっそりと起き上がるところだった。 「詫びの入れ方も知らんのかい」  さっさと謝って立ち去るのが最善か。 「すいませんでした」  晃司は軽く頭を下げた。
人を拾う話03
「それだけかい」  男がため息をつくように言う。  ぼさぼさの髪はベタついて見える。ヨレヨレのトレンチコートは量販店の吊るしだろう。安物らしいチノパンも、数日着たきりのようだ。  だが、ホームレスだとは思えなかった。男が何日か身だしなみに構わなければ生えているであろう無精ひげが無かったのだ。特有の嫌な臭いも感じない。  男はポリポリと首の後ろを掻いた。 「兄ちゃん、朝帰りなんていいご身分のようだな」  何を要求されるのかわからない。晃司は少し警戒して、左足を一歩引いた。 「文無しでとうとうアパートもおん出されちまってよ、何日か泊めてくれよ」  それとも家族がいるってんなら、と言って男が考える素振りを見せた。
人を拾う話04
「一人暮らし、ですけど」  相手のペースに呑まれた晃司がつい答えてしまうと、男はニッと笑った。 「ここは所帯持ち向けだろ。嫁さんに逃げられでもしたか」  確かにこのマンションはファミリー層向けではある。大学生時代に起業し、多少なりとも収入が得られるようになったところで、自宅でも作業が出来るようにと借りたのだ。 「そういうわけでは」 「じゃあ決まりだな」  男が立ち上がってエントランスに入る。慌てて追いかけた晃司が止めるまもなくエレベーターの呼び出しボタンを押した。ちょうど一階に止まっていた籠に乗る。 「何階だ」 「二階です」  反射的に答えたことを意識したときには、既に扉が開いていた。
人を拾う話05
成り行きで男を部屋に上げた晃司は、客間にしている洋室に案内した。ソファー代わりにもなる折りたたみ式のマットレスとシーツ、家具はサイドテーブルだけが置かれた部屋だ。 「ふうん、まあまあ良いトコに住んでんだな」  値踏みするように部屋を見回して男が言った。 「私は少し休んでから出掛けますので、それまでここを使ってください」 「おうよ。もう一眠りさして貰うわ」  男はさっそくマットレスを広げた。クローゼットに掛け蒲団が入っていることを伝えて部屋を出る。  個室のドアノブは、すべて鍵が掛かるタイプだ。貴重品も仕事上の書類なども書斎に仕舞ってある。眠ってしまっても大丈夫だろうと判断して、晃司は寝室に入った。
人を拾う話06
ジャケットを脱いでベッドに倒れ込み、何をやっているんだろうと自問する。素性も何もも知らない相手を、数時間とはいえ家に入れたのだ。午後の出勤時には追い出そうと決めて目をつむる。疲労感が襲ってきて、晃司はたちまち眠りに落ちていく。  設定していたスマホのアラームで目が覚めた。  晃司がリビングに出ると、男がソファーで寛いでいた。勝手に冷蔵庫から出したソーダをラッパ飲みしている。 「勝手に冷蔵庫を開けたんですか」  晃司が非難がましい口調で言うが、男は平然としている。 「そろそろ昼飯だけど、どうする。冷蔵庫に食いもんは無いみたいだったな」 「あなたには関係ないですよね。それより約束通り出ていってくださいよ」
人を拾う話07
晃司が玄関を指さして退室を求めても、男は立ち上がる素振りさえ見せない。 「俺は蹴飛ばされた詫びに何日か泊めてくれって頼んだはずだよな」 「それに同意した覚えはありませんね。私が出掛けるまでとは、言いましたけど」  言質を与えてしまった部分はもう仕方がないが、男の要望を呑んでいないことははっきり伝える。 「お前さん、断らなかっただろうよ。それに『出掛けるまで』ならお前さんが家ぇ出るときに一緒に出るのが筋だろう」  出掛ける前にシャワーを浴びて着替えたいが、男同士とはいえ見知らぬ相手がいる家で無防備にはなりたくない。 「私ももう出掛けますので」 「皺くちゃのシャツでご出勤ですか」  男は見透かしたように言った。
人を拾う話08
「着替えぐらいしますよ」 「じゃあ支度が済むまではゆっくりさして貰うよ」  梃子でも動きそうに無い男を説得するのを諦め、晃司は着替えを取りに寝室に戻った。無防備も何も、赤の他人を家に上げて眠っていたのだ。今さらシャワーくらいで気にすることはないと思い直す。念のために鍵は浴室内に持ち込むことにした。  出勤の準備を終えた晃司が促すと、男はようやく腰を上げた。 「お前さんが帰ってくる頃また来るわ」 「泊まるつもりですか」  警戒心も露わに晃司が訊く。 「最初に何日か泊めろと言ったろう。それをお前さんは断ってねえだろう。出掛けるまではあすこの部屋を使えって言っただけだ」
人を拾う話09
男の言い分はもっともである。 「常識的に考えれば、それ以上は認めてないとわかるでしょう」  晃司が食い下がるが男には通じないようだ。 「ほれ、時間は良いのかい」  男には言われて腕時計を見る。さすがにもう家を出なければ会議に間に合わなくなる。  晃司は男が玄関に向かうのを追いかけた。男を先に外に出して自分も出る。鍵を掛けている間に、男が呼んだエレベーターが到着した。  エントランスで男と別れて、足早に駅に向かう。途中のコンビニでペットボトルのソーダを手に取る。少し迷って、菓子パンも二つ掴んだ。飲食店で掻き込む時間は取れそうに無いと判断したのだ。  昨夜の残業から調子が狂いっぱなしで落ち着かない。晃司はため息をついた。
人を拾う話10
男は晃司のことを見送ると、駅とは反対方向に向かった。2ブロック歩く間にさり気なくコートを脱ぐ。遠回りをして駅に着くと、改札を抜けコインロッカーを開けた。中には明るいベージュのコートと手提げ鞄が入っている。コートを入れ替え鞄を持つと、ふたたび鍵を掛ける。人目につかないロッカーの影で、ブランドのコートを身につけ、手櫛で髪型を整えればセールスマンに見えた。  駅を出た男は、今度は最短距離でマンションに戻る。エントランスを無視して路地に入り、裏口から入る。そこから階段を上れば防犯カメラに映らずに晃司の部屋まで行けることは確認済である。  さっと周囲を見回して、誰もいないことを確認する。男は晃司の部屋のドアポストに手を入れた。
人を拾う話11
チラシを投函する振りで、隠し持った道具を動かす。鍵は簡単に開いた。築年数の古いマンションで、防犯対策も不十分であることには気が付いていた。  無人の部屋に上がり込む。  万が一、住人に姿を見られた場合を想定し変装していたが、ここまでは誰にも注目されていないはずである。  晃司は部下に残業の多さを指摘されて、それでも本来の終業時間を一時間過ぎたところで会社を出た。学生時代からの仲間が書類仕事をしているほかに、プログラマがまだ一人、作業を続けている。  入社してまだ三ヶ月だが、年明けにもβ版を公開する予定の新機能の開発主任だ。 「桧山君もあまり遅くならないように」 「社長に言われても説得力無いっすよ」  画面から視線を外さないまま軽口が帰ってきた。
人を拾う話12
学生時代からの仲間である長谷川に戸締まりを任せて、晃司は会社を出た。雑居ビルのワンフロアを借りているが、そろそろ手狭になってきたと感じている。いわゆるオタク向けのサービスを行う会社で、もともとは友人たちと始めたサークルだった。自作の同人誌を電子書籍やPDFとして販売したの機に、個人向けのクラウドソーシングで電子書籍とPDFを作成する仕事を募集した。始めてから一年半で起業を決断したのは、想像よりも需要が多かったためである。  マンションの前まで来た晃司は、辺りを見回した。今朝の男はいない。解放されたとほっと胸をなで下ろしてエレベーターで二階に上がる。 「よう、今日は早ぇんだな」  玄関前に男が座り込んでいた。大きなトートバッグを持っている。
人を拾う話13
「何してるんですか」  晃司が言うと、男は心外そうな表情をした。 「何って、また来るって言ったろうがよ」 「ですから同意はしていません」 「拒否もしなかったなあ」  堂々巡りである。 「とにかくもう関わらないでください。警察を呼びますよ」 「おう、呼ぶなら呼んで貰おうじゃねえか。そうしたらこっちはお前さんに暴行されたことを言うだけだ」 「暴行って。無理矢理家に入ろうとしているのはそっちですよ」 「人を蹴っ飛ばすのは暴行だろう。それに勝手には入ってねえよ。お前さんがドアぁ開けてくれたから入ったまでよ」  男の言い分も、確かに筋は通っている。男と連れだってマンションに入ったことは、エントランスの防犯カメラがとらえている。ゴミ集積所も写っているかも知れない角度だ。
人を拾う話14
晃司は自分が不利な状況に舌打ちをした。 「それによぅ、出るときにスマホを忘れちまって。アレがねえと仕事が探せねえんだわ」 「仕事ですか」 「おう。日雇いで、四、五日(しごんち)稼いだらカプセルホテルなりに泊まれるから、まあ一週間ほど頼むよ」  暴行の件は黙っとくからと男に言われて、晃司は渋々ドアを開けた。 「ああ、あったあった」  先にリビングに駆け込んだ男は、ソファーの上に置かれたスマートフォンを手に取った。 「あちゃぁ、電池切れだぁ」  言うなりバッグから充電ケーブルを取り出す。 「コンセントは、あった。変換アダプターも借りるよ」  もう好き放題である。晃司は諦めのため息とともに口を開いた。 「仕方ないので一週間だけですよ」
人を拾う話15
夕飯は大抵、外食か出前で済ませる。晃司は今夜の食事を、帰宅する頃合いを見計らって注文していた。当然一人前だ。宅配業者からパスタのセットを受け取りダイニングに向かう晃司に、男が声をかけた。 「なんだ、俺の分はねえのか」 「まさか本当に来るとは思いませんでしたからね」 「昼飯食わずにおん出されて腹ぺこなんだよ」 「知りませんよそんなこと」  そう言いつつも、晃司は一人だけ食事をするのは気が引けた。かといってシェアするほどの量はない。 「ま、そんなことだろうとは思ってたよ。明日の晩飯からは世話になるからな。お前さん、朝は家じゃぁ食わねえタイプだろ」 「大体どこかのカフェか、ファストフードですね」  男が鞄からスーパーのビニール袋を出すのを見ながら答える。割引品のボンゴレが入っていた。
人を拾う話16
「自炊しねえっても電子レンジくらいあんだろう。借りるぜ」  キッチンへ向かう男追いかける気力もなく、晃司は食事に取りかかる。しばらくするとニンニクの匂いが漂ってきた。  夕食が済むと、男がスマートフォンをいじり始めた。明日の仕事を探しているらしく、時折「ここは安いなあ」などと呟いている。晃司は自分の分を用意するついでに、男にもコーヒーを淹れてやった。 「いつまでも『お前さん』に『あなた』じゃあアレだな」  男がふと言った。 「お前さん、名前は」 「大場ですけど」 「そんなもん表札見りゃあ分かるよ。下の名前だよ」 「……晃司」 「佐倉聡汰だ。『佐倉さん』なんて呼ばれんのは好きじゃねえがな」 「名前で呼ぶような間柄でもないでしょう」  晃司の言葉に、佐倉はそれもそうかと笑う。  佐倉が仕事探しに戻ったのを機に会話を切り上げた。
人を拾う話17
書斎に入った晃司は、趣味の活動をしようとパソコンの電源を入れる。仕事は趣味の延長線上で始めたことではあるが、自分の作品を作ることはまた別だ。 「あれ」  マウスに手を置いたときに微かな違和感があった。   晃司はいつも、パソコンの電源を切った後でマウスを持ち上げて、裏についているスイッチを切る。無意識の動作ではあるが、置く場所は毎回ほぼ同じでキーボードから指の幅だけ離れた場所だ。それが今は手のひらが入るほど遠くに置かれている。スイッチも入れっぱなしだ。 「半分寝てたせいか」  ここのところ仕事が忙しく、寝る間を惜しんで創作活動をしている。一昨日は寝落ちしそうになりながら電源を切った。  おかしいとは思いながらも、たまにはそんなこともあるだろうと自分を納得させた。
人を拾う話18
翌朝、晃司が身支度を済ませてリビングに行くと、佐倉がソファーでコーヒーを飲んでいた。昨夜風呂に入ったおかげで、身なりも随分さっぱりしている。もともと汚れた感じはそれほどなかったが、顔や髪のベタつきがなくなるとこうも違うものかと思った。洗濯済みの服に着替えているのも要因の一つだろう。 「また勝手に」 「まあインスタントの一杯くらいケチケチするなよ」  会社には全自動のコーヒーマシンを置いているが、晃司自身にはあまりこだわりはない。 「せめて一言言ってくださいよ」 「ほい、晃司の分」  普段、出かける前は家でコーヒーを飲むことはないが、せっかくだからと口を付ける。 「すぐ出かけるのか」  晃司は腕時計を見た。もうすぐ七時だ。 「半までには出ますよ」 「じゃあ顔洗ってくるわ」  佐倉が立ち上がって洗面所に向かった。
人を拾う話19
晃司が出かける支度を済ますと、佐倉も大人しく家を出た。まさか朝食までたかられるのではと警戒したが、駅へ向かう途中で佐倉はバス停の方へ曲がっていった。  晃司は出社してしばらくし、桧山の姿がないことに気がついた。いつも定時に余裕を持って出勤してくる桧山は、晃司が鍵を開けるとすぐにやってくる。事務所の壁に貼られた従業員のスケジュール表を見て、振替休日になっていることを思い出す。先日、別の稼働中のシステムで障害が起こり、休日出勤をして貰っていたのだ。    午後、仕事に一区切りがついたところで、晃司は給湯室に入った。マシンでコーヒーを淹れていると長谷川も休憩に来た。ついでにもう一杯淹れて紙コップを渡す。 「桧山さんもすっかりウチの主要メンバーだな」  長谷川が言った。
人を拾う話20
「まだ三ヶ月しかいないのに、ずっと一緒に仕事をしている気分だ」  晃司も桧山についてそう話すと、長谷川も同意する。 「そうだな。それに、ついいろいろ頼んじゃうけど、何でも引き受けてくれるし」 「いなきゃ困るくらいだ」  男が公園のベンチで煙草に火を付けると、子供を遊ばせていた若い男性が近付いてきた。 「ここは禁煙ですよ」 「ああ、すまんな。つい習慣で」  ポケットから携帯灰皿を出してきたので、それを借りて煙草を始末する。若い男性はそのまま一人分空けてベンチに腰を下ろした。ペットボトルのお茶を飲む。子供は妻に任せて休憩するらしい。 「ったく、一本くらい吸わせろよ」  男がぼやくと、若い男は肩をすくめた。 「すみません。それで、どうですか、佐倉さん」  若い男性の問いかけに男は――佐倉聡汰は首を振った。
人を拾う話21
「自宅からはまだ何も」  若い男性の問いかけに、佐倉の口調が変わって真面目なものになる。 「まあ、潜り込んだのが昨日で、ろくな調査も出来てないがな」 「ですが三ヶ月かけても、会社の方からは何も出てきていません。長谷川が帳簿を誤魔化して懐に入れている以外は、ですが」 「つまり大場も会社もシロなんだろう、桧山」 「それを判断するのは上(・)ですけどね」  佐倉がベンチから立ち上がる。 「あの会社が機密文書の売買をしてるって話自体、出所も分からないんだろう」 「ですからそれを調べるのがわれわれの仕事です」  妻に呼ばれて桧山が家族の元に駆け寄った。ペットボトルを置きっぱなしにしているのを、佐倉は拾ってゴミ箱に捨てた。 「若いな、桧山は」  そう言い残して佐倉は公園を出る。
人を拾う話22
佐倉はこっそりと晃司の家に戻った。書斎に入り、再びパソコンを調べるために起動した。桧山が掴んだ晃司が会社のパソコンで使っているパスワードを入力してみる。  昨日は阻まれたパソコンのロックがいとも簡単に解除された。 「これでロックしたつもりとはね。不用心だな、IT社長さんよ」  小さく呟いて、ファイルを調べ始めた。  晃司が帰宅するとまもなく佐倉が帰ってきた。日払いで金が入ったからと、ソーダを買ってきている。晃司は二人分注文しておいた夕飯が無駄にならずに済んでほっとした。 「旨そうなカツカレーじゃねえか」 「まあ、手頃な店のデリバリーにしては、悪くないと思いますよ」  旨い旨いといって食べる佐倉を見て、晃司は少し嬉しくなった。手作りでは無いとは言え、自分が用意した食事を喜んで口にして貰えるのは新鮮だった。
人を拾う話23
「今日の職場は社員食堂がしょぼくてな、きつねうどんだったんだか麺はデロデロだし出汁は温いし」 「仕事はどうだったんですか」  晃司は佐倉の親しげな雰囲気につられて、質問をした。 「今日のところは、データ入力の仕事だな」  佐倉が答える。模試の採点結果をコンピュータに入力していくだけだという。 「佐倉さんはそういうの得意なんですか」 「それほどでもねえ。でも決まったところに書かれた数字を、決まった場所へ入れていくだけだからな」  エクセルの入門くらいしか出来なくてもなんとかなる仕事だと佐倉が笑う。 「それよりも採点する大学生のクソ汚え文字を解読する方が難しいや」 「ああ、数字のくせ字は困りますね。『0』と『6』とか『1』と『7』とか見間違うとやっかいだ」
人を拾う話24
「普通『7』なら縦線のところに『チョン』って入れるだろう」 「それ年配の人が書いてるのを見たことがありますね」  晃司の言葉に、佐倉は渋い顔をした。 「俺はまだ四十(しじゅう)だぜ」 「十分おっさんですよ。図々しく人の家に上がり込んだり」  晃司が冗談めかして非難した。  思いがけず会話が弾んだ夕食の後、晃司は普段より早い時間に風呂に入った。佐倉が明日の仕事を探しているうちに済ませる。シャワーだけのことが多い晃司だが、佐倉が湯船に浸かるようなので、湯張りをしたついでに自分も浸かった。  風呂から上がると、佐倉はスマートフォンを傍らに置いてテレビを見ていた。晃司は見たことがないが、話題のバラエティー番組だ。 「仕事は見つかりましたか」 「なんだ、心配してくれんのか」 「仕事が見つからないと、いつまでも居座られそうですからね」
タイトルとURLをコピーしました