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「それだけかい」
男がため息をつくように言う。
ぼさぼさの髪はベタついて見える。ヨレヨレのトレンチコートは量販店の吊るしだろう。安物らしいチノパンも、数日着たきりのようだ。
だが、ホームレスだとは思えなかった。男が何日か身だしなみに構わなければ生えているであろう無精ひげが無かったのだ。特有の嫌な臭いも感じない。
男はポリポリと首の後ろを掻いた。 「兄ちゃん、朝帰りなんていいご身分のようだな」
何を要求されるのかわからない。晃司は少し警戒して、左足を一歩引いた。
「文無しでとうとうアパートもおん出されちまってよ、何日か泊めてくれよ」
それとも家族がいるってんなら、と言って男が考える素振りを見せた。
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