人を拾う話

人を拾う話07

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 晃司が玄関を指さして退室を求めても、男は立ち上がる素振りさえ見せない。
「俺は蹴飛ばされた詫びに何日か泊めてくれって頼んだはずだよな」
「それに同意した覚えはありませんね。私が出掛けるまでとは、言いましたけど」
 言質を与えてしまった部分はもう仕方がないが、男の要望を呑んでいないことははっきり伝える。
「お前さん、断らなかっただろうよ。それに『出掛けるまで』ならお前さんが家ぇ出るときに一緒に出るのが筋だろう」
 出掛ける前にシャワーを浴びて着替えたいが、男同士とはいえ見知らぬ相手がいる家で無防備にはなりたくない。
「私ももう出掛けますので」
「皺くちゃのシャツでご出勤ですか」
 男は見透かしたように言った。

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