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「自炊しねえっても電子レンジくらいあんだろう。借りるぜ」
キッチンへ向かう男追いかける気力もなく、晃司は食事に取りかかる。しばらくするとニンニクの匂いが漂ってきた。
夕食が済むと、男がスマートフォンをいじり始めた。明日の仕事を探しているらしく、時折「ここは安いなあ」などと呟いている。晃司は自分の分を用意するついでに、男にもコーヒーを淹れてやった。
「いつまでも『お前さん』に『あなた』じゃあアレだな」
男がふと言った。
「お前さん、名前は」
「大場ですけど」
「そんなもん表札見りゃあ分かるよ。下の名前だよ」
「……晃司」
「佐倉聡汰だ。『佐倉さん』なんて呼ばれんのは好きじゃねえがな」
「名前で呼ぶような間柄でもないでしょう」
晃司の言葉に、佐倉はそれもそうかと笑う。
佐倉が仕事探しに戻ったのを機に会話を切り上げた。
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