人を拾う話

人を拾う話21

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「自宅からはまだ何も」
 若い男性の問いかけに、佐倉の口調が変わって真面目なものになる。
「まあ、潜り込んだのが昨日で、ろくな調査も出来てないがな」
「ですが三ヶ月かけても、会社の方からは何も出てきていません。長谷川が帳簿を誤魔化して懐に入れている以外は、ですが」
「つまり大場も会社もシロなんだろう、桧山」
「それを判断するのはですけどね」
 佐倉がベンチから立ち上がる。
「あの会社が機密文書の売買をしてるって話自体、出所も分からないんだろう」
「ですからそれを調べるのがわれわれの仕事です」
 妻に呼ばれて桧山が家族の元に駆け寄った。ペットボトルを置きっぱなしにしているのを、佐倉は拾ってゴミ箱に捨てた。
「若いな、桧山は」
 そう言い残して佐倉は公園を出る。

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